ブリージング・セラピー(呼吸法)Ⅰでは、スタニスラフ・グロフ博士の「ホロトロピック・ブレスワーク」の実際のセッション体験について記しました。
ここでは、この理論の前提となっている「分娩前後マトリックス」について、ここでは少しご紹介しましょう。
※グロフ博士の『脳を超えて』(吉福伸逸他訳 春秋社)という大著があります。最下部の一覧表は同書からの要約です。
◆「出生外傷(バース・トラウマ)」の発見
―「分娩前後マトリックス」
博士は、当初、LSDを使った心理療法(サイケデリック・セラピー)を行なっていましたが、クライアントとの数千回にわたるLSDセッションを行なう中で、人間の深層に「出生外傷(バース・トラウマ)」が存在することを発見しました(そう判断しました)。
(http://hive.ntticc.or.jp/contents/interview/grof)
それは、人間が「胎児として、子宮から膣道を通って出産される」という強烈な体験過程の記憶です。それがLSDセッションでは回帰(再体験)してくることになります。
グロフ博士は、これを基本的分娩前後マトリックスBPM (Basic Perinatal Matrix)と呼んで、体験のフェーズごとにBPMⅠ~ BPMⅣまで4つに分けて解説しています。
そして、それらが「原トラウマ」として、その後の人生に大きな影響を与えていることと考えたのです。
それらは精神障害で現れるタイプ・傾向から、日常生活での好み嗜好/強迫観念、性的な好み嗜好までその人を貫く大きな要素として存在しているという仮説です。
①BPMⅠ 母親との原初の融合
最初のフェーズです。これは胎児が、母親の子宮の中にたゆたっている状態です。子宮内が良好な状態であれば、これは安逸(至福、天国)の体験です。子宮内が胎児にとって不快な状態であれば、最悪の体験(地獄)です。胎児にとっては子宮内が宇宙そのものであるからです。
②BPMⅡ 母親との拮抗作用
やがて、出生の時期を迎えます。胎児は子宮口に吸い込まれていく体験に入ります。胎児にとっては危機的な状況です。窒息や吸引など様々な脅威がこの体験過程の表象となっています。
③BPMⅢ 母親との相助作用
産道・膣道を通って出産される場面です。胎児は膣道の万力のような圧倒的な力に、自分が圧し潰されそうになる脅威を感じます。膨大なエネルギーが発散・放出されます。同時にぞっとするような性的でもある火山的エクスタシーを体験することもあります。
④BPMⅣ 母親からの分離
実際に、出産されて母親の外に出る体験です。恐ろしい苦難の後の突然の解放体験となります。そこでは、まばゆさと歓喜に満ちた元型的な世界を体験したりもします。
さて、以上のような4つのフェーズが原型的な体験となって、私たちの深層意識の底に巣食い、その後の人生に与えていくというのがグロフ博士のBPM仮説となっています。
ところで、このような心の原風景は、筆者の変性意識状態を使ったゲシュタルト療法においても、しばしば現れてくるものであります。
そのため、ブリージング・セラピーに限らず、クライアントの深層意識をあつかうセラピスト、ファシリテーターは、この仮説(理論)が描写する生々しいイメージや症状、欲求(感情)形態、心理構造をよく理解しておいて損はないと思われます。
※体験的心理療法や変性意識状態(ASC)についての総合的な方法論は拙著↓
入門ガイド
『気づきと変性意識の技法:流れる虹のマインドフルネス』
および、よりディープな
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』をご覧下さい。