【内容の目次】

セッションの構造的普遍性
セッションの流れ【要約版】
ワークとは

 ①信頼できる安全な空間(場)づくり
 ②あつかうテーマを決める
 ③リラックスして、3つの領域に気づきをひろげる。
 ④深い欲求(感情)に気づき、焦点化する。
 ⑤気づきを深め、欲求(感情)を展開する。体感を通して解決する
 ⑥現実に、より着地(統合)する
 ⑦ワークの終了


▼セッションの構造的普遍性

当スペースで行なっているセッションは、進化型(深化型)のゲシュタルト療法となります。
ゲシュタルト療法のもつ感覚的、流動的、即興的、創造的なアプローチ(ワーク)をベースに、よりクライアントの方が潜在意識の発現を体験され、自身の変容を経験していただけるように深化させた形となっています。

ところで、ゲシュタルト療法のセッションというものは、瞬間瞬間の感覚や感情、心やからだのエネルギー、気になることや快苦に丁寧に気づいていくというプロセスとともにじっくりと進んでいきます。
そのため、その展開はとてもナチュラル(自然)な、人間の生理的なプロセス、潜在意識の自律的な発現をたどっていくものとなります。
(適切で核心的なアプローチがあれば、その中でクライアントの方は変性意識状態(ASC)の中に入っていきます)

そのため、セッションの深いプロセス(体験過程)というものは、興味深いことに私たちが子供の頃からなじんでいる昔話やおとぎ話や神話のパターンと大変似かよったプロセス(構造)をたどっていくことになるのです。昔話や神話とは、人類が長い歴史的な歳月をかけて、自らの心の姿を映し出したものであり、私たちの根源的な心の構造が映し出されているものだからです。
そのパターンとは、
「主人公が、別世界(異界、変性意識状態)に冒険に行って、宝物(秘密のパワー、癒し、人生の変容)を獲得して、元の世界に戻って来る」
という形です。このような冒険物語に似たパターンをもっているのです。
この普遍的なパターンが私たちの心にとって重要であるがために、NLP(神経言語プログラミング)などでも、ジョゼフ・キャンベルの「神話モデル」が重視される理由となっているのです。
英雄の旅 (ヒーローズ・ジャーニー) とは何か

当スペースのゲシュタルト療法のセッションも、そのような神話物語の形式と似たパターンを持っています。
この神話物語との類似性は、セッションというものが人間心理の普遍的な構造に根ざした「創造と刷新(再生)のプロセス」であることを意味しているのです。
ところで、ゲシュタルト療法の創始者フリッツ・パールズが「自分はゲシュタルト療法の創始者ではなく、再発見者にすぎない」と言ったのはそのような意味合いです。とても本質的な原理によってできているのです。そのため、ゲシュタルト療法は、心理療法というだけでなく、潜在意識のさまざまな領域(可能性と創造性)を探索する上でも、とても有効な方法論となっているのです。

たとえば、ユング心理学の流れをくむプロセスワーク(プロセス指向心理学)の創始者アーノルド・ミンデルは指摘します。

「現代のゲシュタルト療法の創始者であるフリッツ・パールズは、先住文化のシャーマンがいれば間違いなく仲間として歓迎されたであろう。パールズは、自己への気づきを促すために、夢人物(ドリーム・フィギュア)や身体経験との同一化ならびに脱同一化法を用いた。そして、モレノの「サイコドラマ」から、夢見手が自分や他者を登場人物にすることによって夢の内容を実演化する方法を借用している」(ミンデル『ドリームボディ』藤見幸雄監訳、誠信書房)


それゆえに、誰においてもゲシュタルト療法の感覚を習得されていくことは、潜在的な創造力を解放する決定的なメリットにつながっていくわけなのです。
当スペースが、ゲシュタルト的アプローチを心理統合(治癒)だけに限定するのではなく、創造的なアウトプットの開発や意識の拡張といった多様な側面にフォーカスしている理由でもあるのです。

以下では、そのような(当スペースの)ゲシュタルト療法のセッションが、どのような内容を持つものかを解説いたしたいと思います。

【ブックガイド】
ゲシュタルト療法については、基礎から実践までをまとめた拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧下さい。
おとぎ話や神話が持つ、深い意味合いは、コチラ↓
『砂絵Ⅰ: 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
変性意識や気づきについての入門は、コチラ↓
『気づきと変性意識の技法:流れる虹のマインドフルネス』
「英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)」




▼ワークとは

ゲシュタルト療法では、セッションの中で、ファシリテーターと自らの心理的テーマに取り組み、それを解決していく作業のことを「ワーク」と呼びます。
ゲシュタルト療法同様、米国西海岸系の体験的心理療法では、クライアントとして或るテーマに取り組むことをだいたい「ワーク work (作業)する」と言います。そのため、厳密にいうと、契約されたセッション時間の中に「ワーク」という取り組みの単位があるという構造になっています。

さて、ワークは、クライアントの方とファシリテーターとの相互のやりとりで、進行する取り組みのものとなっています。1つのワークは、大体30分~90分かけて行なわれます。

ここでは以下で、実際にゲシュタルト療法のワークでは、どのような事柄が行なわれるのかについて描いてみたいと思います。クライアントの方がどのような内的体験をされ、どのように解放や心理的統合を得るのかについてプロセスにそって描いてみたいと思います。

古典的なゲシュタルト療法はグループセラピーですので、ワークを希望するクライアントの方が挙手をして参加者皆の前で、ファシリテーターとワークを行ないます。個人セッションの場合は、クライアントの方とファシリテーターと二人で以下のようなことを行なっていきます。

◆気づき awarenessの力の重要性

ところで、ゲシュタルト療法のセッションにおいては、クライアントの方にご自分の欲求や感情に刻々と「気づいてawareness」いただき、表現してもらうということを行なっていただきます。これがセッションの核となります。

この「気づきの力」については、最近では「マインドフルネス」という言葉とともに、その本当の能力(機能)が知られるようになってきました。
「気づき」とは、単なる認知や認識とは違います。
「気づき」「マインドフルネス」の機能は、私たちの通常の日常意識や注意力に対して、メタ(上位)的な位置と働きを持っているものなのです。そして、正しく使うと私たちの心理的統合と成長を大いに促進するものなのです。
逆の言い方をすると、普段の私たちはあまり「気づきを持たない状態」で生活しているといえるのです。
ゲシュタルト療法のセッションやマインドフルネス瞑想をきちん行なうと、このことに気づかれると思います。

フリッツ・パールズは語ります。

「『気づく』ことは、クライエントに自分は感じることができるのだ、動くことができるのだ、考えることができるのだということを自覚させることになる。『気づく』ということは、知的で意識的なことではない。言葉や記憶による『~であった』という状態から、まさに今しつつある経験へのシフトである。『気づく』ことは意識に何かを投じてくれる。」(パールズ『ゲシュタルト療法』倉戸ヨシヤ訳、ナカニシヤ出版)

そして、

「『気づき』は常に、現在に起こるものであり、行動への可能性をひらくものである。決まりきったことや習慣は習された機能であり、それを変えるには常に新しい気づきが与えられることが必要である。何かを変えるには別の方法や考え、ふるまいの可能性がなければ変えようということすら考えられない。『気づき』がなければ新しい選択の可能性すら思い付かない。『気づき』と『コンタクト』と『現在』は、一つのことの違った側面であり、自己を現実視するプロセスの違った側面である。」パールズ『ゲシュタルト療法』倉戸ヨシヤ訳、ナカニシヤ出版)

ワークを通して、クライアントの方は、マインドフルネスの静かな自己集中を行ない、このような〈気づき〉の状態をまざまざと体験していくこととなります。そして、自分が人生で刻々と新しい行動をとれる存在であることを、新しい心の解放とともにまざまざと体感していかれることになるのです。


①信頼できる安全な空間(場)づくり


さて、まずワークでは、それが行なわれる空間が大切となります。この場の空間づくりは、第一にはファシリテーターの仕事(役割)です。そのため、通常ファシリテーターからクライアントの方へその空間でのルールや取り決め事項などをさまざまな事柄を説明させていただきます
一方、クライアントの方には、そのセッション空間やファシリテーターの存在(質)信頼に足るものであるか否かを、ぜひご自分の感覚で確かめていただければと思います。さて、これらのことがなぜ重要なのでしょう?

ワークが効果的に行なわれるためには、クライアントの方にとって、その空間(ワークショップ、セッション・ルーム)が「安心できる、守られた空間」であることが必須となるからです。
それでなければ、クライアントの方は安心し、リラックスして自分自身の心の底に降りていき、深い感覚や深い感情に気づいたり、触れたりすることなどできないからです。ましてや話したり表現することなどはできないからです。

また、安心できる信頼できる空間であると、クライアントの方が感じたならば、プロセスの中で、クライアントの方はごく自然な形で意識の変容状態である変性意識状態(ASC)に入っていきことにもなるからです
そして、その状態は、自然治癒のような形でクライアントの方の潜在意識を活性化させ、癒し(統合)を行なうセラピーの大きな下支えとなっていくのです。そのためにも、信頼できる空間であるか否かというのは、とても重要な要素となっているのです。クライアントの方はこの部分については、ぜひご自分の直観や嗅覚を信じていただければと思います。


②あつかうテーマを決める


通常は、ワークのはじめに、クライアントの方が、そのセッションであつかってみたいテーマを提出します。テーマは、それがクライアントの方自身の感覚・感情を訴えるものであれば、大体のところあつかえます(簡単にあつかうべきではないテーマは別として)。

テーマはおおよそ、クライアントの方がその時気になっている生活上の課題や願望、快苦をテーマに取り上げることが多いものです。
そのように、今現在、気持ち的・生理的に前景に現れてきているテーマを切り口とすると、潜在意識からより深いアウトプット(解決策、方向性、治癒、創造性)が得られやすくなるからです。それが「ゲシュタルト」というものの性質でもあるからです。

・今、課題や障害と感じていること(感情や行動)。
・今、自分が強く望んでいる事柄
・今持っている心の迷い・葛藤・苦痛

・人生の中で達成したいテーマ
・最近(また昔から)、気になっていること
・人生の課題で答えが欲しいこと
・気になる身体症状や夢

などなどです。

いくつかテーマを用意しておいて、ワークの直前に「心の中で高まってきた事柄」があつかうのにもっとも適したテーマです。それは心自身が発しているシグナルだからです。

ところで、セッションに来た時点でも、クライアントの方自身が自分のテーマが何なのか明確になっていないケースもとても多いものです。
「とりあえず、何かやってみたくて来ました」というケースです。しかし、それで全然かまいません。

実際、ワークのとっかかりとしては、クライアントの方が、今現在、気になっていること(気持ち、出来事)を色々と話していかれる中で、ファシリテーターがその話を受けて、質問をしたり、焦点化することで、ワークのテーマを一緒になって見つけていく(提案させていただく)というパターンも多いのです。

ところで、ゲシュタルト療法のワークにおいては、以下に見るように、「今ここ」の感覚(感情)に焦点化して、そこで現れてくる欲求(感情)に丁寧に気づき、それをたどっていくことで必ず重要な(核心的な)テーマにたどり着けるという考え方(理論)があります。そのため、はじめに設定するテーマについては、あまり詰めて考えなくともいいといえるのです。


③リラックスして、3つの領域に気づきをひろげる。


さて、ここからが、セッションの本編に当たる部分です。おおよそのテーマや方向性が決められた後、クライアントの方のテーマが持つ内実を探索していく段階となります。

ところで、ワークの最中に、クライアントの方に行なっていただくこといえば、基本的には、心を静かにマインドフルネスの状態になり、ご自分の奥から湧いくる感覚や欲求(感情)の動きに、気づきを向け続けていき、それを表現してもらうということだけです。

ファシリテーターはそのシェアを受けて、その体験をさらに深めていただくための、またより深い展開を行なっていただくためのさまざまな提案を行なっていくのです。

そして、クライアントの方には、それら提案に興味が湧いた場合にのみ、また自分の心の表現としてそれが「ピッタリ来た」「興味が湧いた」「響いた」と感じられた場合に、それらを「実際に行なって」いただくのです。
また、ご自身で「よりぴったりとした表現」「別にもっとやりたいこと」が浮かんできた場合は、それを行なっていただきます。

つまり、さまざまな体験や表現を、
・より感じてみたり、
・より気づきの焦点を当ててみたり、
・より大きく表現してみたり、
していくわけです。

また、気づいて awareness いくことに関していえば、心をマインドフルネスの状態にして、「3つの領域(主に、内部領域、中間領域)」湧いてくる欲求(感情)を拾いあげ(ピックアップし)ていくことが行なっていただくことです。
3つの領域とは、別に記したように。ゲシュタルト療法が考える、注意力が向けられる3つの領域のことです。

①肉体の中の感覚世界や感情世界である内部領域
②まわりに見える外部世界を感じている外部領域
③思考や空想の行き交う中間領域 です。
→「気づきの3つの領域」

とりわけ重要なのは、①の内部領域です。そこに生きた実質や葛藤が存在しているからです。
クライアントの方には、
たえずご自分の内部・外部・中間領域で起こるさまざまな感覚や感情のシグナルに気づきを向けていただくわけです。

そのため、ワークの際中、ファシリテーターはしばしば問いかけます。

「今、何に気づいていますか?」
「今、何を感じていますか?」
「今、何を体験していますか?」

クライアントの方には、ワークの進行に合わせてさまざまな表現を行なっていきますが、常に戻ってくるのはこの地点です。この気づきの地点が、ワークのアルファ(始点)でありオメガ(終点)であるのです。

「その感じ(感情)をよく感じてください」
「その感覚(感情)をよく気づいてみてください」

このようにファシリテーターは言います。その感覚・感情・欲求により焦点化していただくためです。
その感覚の中
にこそ「答え」があるからです。その感覚とそこに在るものが「答え」を知っているからです。
今ここで自分に起きている感覚や感情にただまっすぐに気づいていくだけで、治癒(解放と統合)のプロセスは自然に活性化し、私たちの調整機能はグッと深まっていくものなのです。

自分の内的欲求(感情、快苦)に今ここで刻々気づいていること、そこにすべての出発点と答えがすでにあるのです。ゲシュタルト療法が「今ここのセラピー」といわれる所以です。

中間領域の思考や空想や連想に流されしてまうのではなく、それらに流されずに、内部領域のプロセスや外部領域の現実にただ気づいていくという支点が、変容と統合をつくっていく要であるのです。
これが、気づき awareness の力の重要性なのです。

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さて、ワークの具体的場面(風景)をもう少し細かく説明しますと…

ファシリテーターは要所要所で、上記のように、クライアントの方の中で起こっている欲求(感情)について問いかけと確認を行なっていきます。クライアントの方にご自分の感覚を澄ましていただき、3つの領域のさまざまな感覚チャネルの欲求(感情)に気づいていただきます。気になっていることをシェアいただきます。例えば以下のようにです。

▼肉体の感覚・欲求に気づく
→お腹のところに凝りを感じます。
→肩のところが重くなったように感じます。
→胸の中がムカムカ気持ち悪いです。

▼視覚/イメージ/ヴィジョンに気づく
→昔の学校で大勢でいる風景が見えます。
→何か黒い煙のようなイメージがそこにあります。

▼聴覚/声/言葉に気づく
→こんな言葉が思い浮かびました。
→知り合いが昔こんなことを言ってました。
→耳を刺すような音が聞こえます。

▼記憶に気づく
→こんな出来事が浮かんできました。
→こんな夢を思い出しました。

クライアントの方のシェア(報告)を受けて、ファシリテーターはさらなる感覚や感情への焦点化やその奥にものを探るためのさまざまな提案を行なっていきます。
このようなやり取りを行なう中で、クライアントの方はご自身の中の「より気になる感覚(感情)」というものを明確にしていくこととなるのです。
そのプロセスを通じて、自己の内部への潜入がどんどんと深まっていくこととなるのです。また、この過程でだんだんと軽度な変性意識状態(ASC)入っていくというこも起こってくるのです。


④深い欲求(感情)に気づき、焦点化する


さて、ゲシュタルト心理学の世界では、生体(生物の生理)にとって緊急かつ必要な欲求(感情)が、「図」となって感覚の前景に現れてくると考えています。ゲシュタルトとは何か

ワークの実際の場面でいうと、気になった欲求(感情)というものは、そこに気づきを当てるとあたかも異物を吐き出すかのようにその奥底の欲求(感情)を前面に押し出してくることとなります。そして、その奥底の欲求(感情)に気づいていくと、さらにその奥底の欲求(感情)が出てくることとなるのです。
そこで
だんだんとエネルギーが流れてくるのです。そして、このような気づきと焦点化を深める中で、その欲求(感情)の深い正体現れてくることになるのです。
そのプロセスが進む過程においては、肉体的に弛緩が起こったり、小さなアハ体験(小さなサトリ)が起こったりします。何か「わかった感じ」に触れるのです。それが、ワークを進めるサインやシグナル、道標となります。
このようなプロセスでワークは進んでいきますが、クライアントの方の欲求(感情)への探索が深まっていきますと、やがて少し強めの欲求(感情)の塊/鉱脈たどり着くこととなります。

これが、クライアントの方が、普段の日常意識ではなかなかつかまえられない核心的なテーマ(とその入口)であるのです。
テーマは、心の中でさまざまな形で存在しています。
ご自分の中にある複数の相反する欲求(感情、自我状態)が対立しているために、心にストップや制限をかける「葛藤状態」や、
過去の体験が未消化に終わっているため、心の中でストップをかけている「未完了の体験(ゲシュタルト)」「やり残した仕事 Unfinished Business」などです。

ところで、「葛藤状態」や、「未完了の体験」というものは、通常、私たちの中では、体験記憶や抑圧の重層性にしたがって、ミルフィーユのように多層状になって構成(存在)されているものです。そのため、強い感覚にたどり着いたといっても、それは入り口(表面)にたどり着いたという意味合いとなります。
そこから一皮一皮剥いて、さらにその奥底にある核心に向かっていくというのがワークのプロセスとなります。ただ、ここにおいては、クライアントの方はすでに一種の変性意識状態(ASC)に入っているため、比較的スムーズな形でそのプロセスを内奥の世界まで追跡していくことができるのです。ワークが終わった後で、まるで別世界(異界)に入って行った体験だったと振り返ることが多いのもそのためです


◆ゲシュタルト療法の介入技法の意味 (心を可視化する)

ところで、ゲシュタルト療法といえば、エンプティ・チェア(空の椅子)の技法や、身体の動きや表現を使った技法など、比較的派手な?技法がイメージされがちです。
これらの技法は、そもそも何の効果を狙ったものかといいいますと、上で見たような感覚(欲求・感情)により焦点化し、増幅(促進)するために行なうものです

通常、私たちの感情というものは、混然一体の悶々とした塊の状態にあり、その感情の内訳(明細)を、私たちは明確にはとらえられてはいません。また、ワークの最中においても、さまざまな感情がもつれつつ行き交っているので、その中にどんな感情があるのか分からないのです
この個々の感情のゲシュタルトを明確にしていくのが、プロセス展開の肝となります。
技法的な工夫によって、このゲシュタルトを明確にし「心を可視化」するというが各種の技法的介入の意味なのです。
クライアントの方の欲求(感情)を焦点化したり、切り分けたり、増幅したりするためにこれらの技法を使うのです。

【例】
「その感覚(気持ち)はどんな姿(形、色、感触、冷熱、硬軟)をしていますか?」
「その感覚はなんと言っていますか?」
「その感覚は、からだのどこにありますか?」
「からだのその部分は、なんと言っていますか?」
「からだのその部分と会話できますか?」
「たとえば、この椅子に、その○○という気持ちを取り出すことができますか?」
「ここに置いたその気持ちは、どう見えますか?」
「たとえば、○○と言ってみる(表現してみる)のはどうですか?」
「実際に、そう言ってみると、どんな気持ちがしますか?」
といったような具合です。

このようにして、欲求(感情)に、ゲシュタルト的な感覚実体を与えることにより、心のエネルギーの流動化を促し、その姿をより明確にとらえられるようになっていくのです。
また、その欲求(感情)の表現を通して、さまざまな欲求(感情)同士の対話や交流・融合を図ることもできるのです。
そのことが心理的な解決と統合に決定的に作用していくことになるのです。


⑤気づきを深め、欲求(感情)を展開する。体感を通して解決する


さて通常、クライアントの方の中で深い気づきが得られた後でもさまざまな別の欲求(感情)が残っている(待機している)ものです。
先ほど触れたように、心はミルフィーユのように幾層にも渡って、層状に構成されているものだからです。
それら表層上のものを超えて、ある程度の核心的な層(腑に落ちる層)に触れることまでを、ワークは目標とします。

ところで、人間の心は層状に積み重なって構造化されているので、或る心のテーマ(欲求・感情)が、気づきと表現を通して解放されると、自然にその下からさらなる次のテーマ(欲求・感情)が現れてくることになります。
このプロセスの繰り返しにより、心のより深くまで探索していけることとなり、日常生活では予想もできなかったようなより深い解放と変容、統合を得ることができるのです。

そして、この探索の深まり(次元)の深さが、通常のカウンセリングやコーチング、NLPなどと較べた場合の、ゲシュタルト療法の持つ圧倒的な効果の秘密でもあるのです。アーノルド・ミンデルが指摘するようにシャーマニズム的な深さでもあるのです。

◆変性意識状態(ASC)の体験とスキル

さて、古典的・教科書的なゲシュタルト療法がよく理解していないことですが、重要な要素でもある変性意識状態(ASC)について少し解説してみたいと思います。

このようにワークの中で、自己の感覚に深く没頭し沈み込んでいく過程で、クライアントの方は、軽度な変性意識状態(ASC)に入っていくこととなります。それがゆえに、普段気づけないことに色々と気づけたり、普段行なわないような表現を(あまりまわりを気にせずに)行なえるようになるのです。これは、変性意識状態(ASC)においては、日常意識の価値観や知覚が希薄になり、潜在意識からの欲求(感情)、自我状態とよりダイレクトなつながりが達成できているからです。
また、変性意識状態(ASC)自体が、クライアントの方の深部にある潜在意識の活性化と自律性を増大させ、自由な解放状態や創造的な統合状態へと運んでいくことにもなるのです。

くわえて、変性意識状態(ASC)は、クライアントの方が普段同一化している自我状態や日常意識から、クライアントの方を強く解き放つ作用も持ちます。
これがワークの中で、クライアントの方が、しばしば、超越的でトランスパーソナルな(個人性を超えた)新世界を体験する理由でもあるのです。それはしばしば、鮮やかな知覚的光明に満ちた意識拡張体験になったりもするのです。

◆体感を通した表現スキルの獲得

ところで、また、ゲシュタルト療法の特徴でもありますが、クライアントの方には、実際に感じた欲求(感情)について「心身で体感を通して」表現していただくことを行ないます。心身一元論的な理論に裏付けられたものですが、ここが重要なポイントとなります。

このような身体的アウトプット(表出・表現・外在化)の体験が、クライアントの方の心身の中で組織化され、心理的統合と表現力の決定的な力となっていくからです。
それは、頭の中(中間領域)だけではなく、実際に「物理的(内部領域・外部領域)に」表現することは、心身の神経的・脳的・物理的・エネルギー的に直接作用することになるからです。肉体動作を通して、その体感エネルギーを通して、物理的・神経的に書き換えることになるからです。
そのため要所要所で、ファシリテーターは、クライアントの方の物理的な表現を促していくこととなります。それはそれがとても決定的な統合(心身の組織化)の効力を持つためであるからなのです。

 

そして、クライアントの方は、ワークの中でこのような気づきと物理的表現、小さなアーハ体験を繰り返す中で、やがてひとつの感情的な納得、統合的な腑に落ちる段階(地点)に到達することとなります。
その地点で、ひと一区切りの創造的解決(解放と統合)がもたらされるのです。
そして、クライアントの方の気づき・ある種のサトリ・充実感と統合感・着地感とをもって、ワークは終了していくのです。
クライアントの方にとってその感覚は、自分の本当にやりたいことを葛藤や妨げなくできるように感じられる充実感、もしくは自分の欲求がひとまとまりになったような統合感、集中された「まとまり感」、主体感として感じられるものとなるのです。


⑥現実に、より着地(統合)する


ワークの最後の段階では、クライアントの方の深い部分から出てきたばかりの、まだ柔らかい新しい欲求(感情)、統合感を、日常生活で充分に活かしていけるか確認を取っていきます。
変性意識状態(ASC)の異界の中でとらえられた、その新しい欲求(感情)感覚が、日常的現実できちんと活かされるように創造的調整をとっていきます。

新しい心の要素(意欲、能力、欲求)は、過去の人生の中で理由があって抑圧されていた自我の要素となります。
そのため、その新しい自我(意欲、能力、欲求)が、既存の日常生活の中でもしっかりと自立し、新しい力を発揮できるように居場所と防具(結界)を持つことが大切となるのです。

そのため、ワークの最後の場面では時間をかけて、(変性意識状態から抜け出ていくとともに)新しく現れてきた自我状態(意欲、能力、欲求)と既存の自我状態との統合を定着させていきます。

具体的な手法としては、現実の実務的な場面のリハーサルや、(グループの場合などは)巡回対話の技法など色々ありますがここでは省略いたします。

この場面は、ワークとしては、新しい自我状態をサポートし、たくましく育てていく方向づけとして、決定的に重要な場面(局面)でもあるのです。


⑦ワークの終了


クライアントの方が、日常意識と日常感覚の中で、統合感(着地感)をしっかりと得られたと確認された段階で、ワークは終了します。ワークの空間が閉じられていきます。


さて、以上、長くはありましたが(また大枠を単純化して書きましたが)、ワークの中核的なプロセスを解説いたしました。

実際のワークは、クライアントの方のさまざまな想いや逡巡を探索しつつ、あちこちに寄せては返す波のように行きつ戻りつしながら進んでいくものです。
しかし、漂流しつつ展開するそのプロセスの背後(核心)には、クライアントの方が元来持っているパワフルで素晴らしい自律性と創造性の泉が必ず待っているものなのです。

そして、このようなワークの探索を通じて、クライアントの方の人生は、確実に変化・変容していくものであるのです。ぜひ実際のワークを体験してみていただければと思います。